分配は二段階で実現する


経済は、生産と分配、消費の三つの局面からなる。
財は、生産されても消費者に分配されなければ意味がない。
経済は、分配が要である。生産された財をいかに公平に分配するか、それが経済体制を決める。
ところが経済と言うと生産の局面ばかりが注目を集め、分配と言う局面は、軽視されがちである。

分配は、生産の場と消費の場が分離する事から生じた。生産と消費の場が分離した事で市場が成立したのである。そして、それが社会的分業の始まりである。
多くの人は、分配は市場で行われると錯覚している。しかし、分配は、第一段階で一定の基準に基づいて組織的に「お金」を配分したうえで、次の段階で配分された「お金」を使って必要な財を購入するという二段階で行われる。
分配の実体は、第一段階の組織的な「お金」を配分する処の方が比重は大きい。
「お金」は、分配の手段である。

収益と費用が分配の実際をになっている。利益は指標である。指標である利益は差額勘定である。
市場経済は、収益を中軸とした経済体制である。

現代の先進国経済の最大の問題点は、収益力が低下したことにある。利益ばかりを追い求め、収益と費用の役割が忘れられた。その結果、分配の働きが失われたのである。

製造業が弱体化したのは、生産部門が価格の決定権を失ったことが一因である。価格を維持できなくなれば、経費を削減し、量販するしか利益を確保する手立てがなくなる。経費削減の中でも重要となるのは、固定費である。ー固定費の経費削減で最も狙い撃ちにされるのは、人件費である。なぜならば、設備投資から生じる償却費は、投資時点で確定してしまうからである。
かつては、生産部門でも定価販売によって価格を維持する為の手段は与えられた。しかし、規制緩和、自由競争の名目によって価格破壊が起こり、生産部門から価格の決定権は奪われたのである。そして、価格破壊が起こり、利益を維持する為に、徹底的な費用の削減が求められた。その過程で報酬から属人的に部分が削ぎ落され、更に、無人化まで押し進んだのである。結果、生産部門から人間が排除され、それがやがて流通部門にまで及んでいる。現代の識者のとって顧客第一主義、即、廉価、安売りである。彼等にとっては、費用は悪でしかない。結果、「お金」を分配する仕組みが機能不全に陥ったのである。

ネット社会の落とし穴は、生産と消費を直接結びつけることによって分配と言う機能が働かなくしてしまいつつあることである。
ネット社会で生産の現場から人間が排除された社会をバラ色の様に描いている者がいるが、彼等は、どうやって人々に「お金」を配分しようというのだろうか。労働は、苦であると言った間違った価値観が根底にあるように思える。労働を苦とするのは、苦役であり、苦役から人間を開放するのは正しい事ではあるが、だからと言って働く事とそのものを否定したら人間の居場所がなくなるのである。無人化されたショッピング街の廻りを失業者が取り囲む。そのような経済体制を望むのであろうか。
更に、IT企業の多くがIPOやM&Aを目的としている。本業が赤字なのに、高額なキャピタルゲインを得る。しかも、多くのIT企業は、低賃金で定着率が悪い。
これは、また、資本家と労働者と言う構図を甦らせかねない。




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