時 間
経済的価値には、貨幣化できない価値が多く含まれている。又、貨幣化するとかえって制約されてしまう経済活動もある。経済は、貨幣によってのみ成り立っているわけではない。
賃金労働に置き換えると労働を限定的に捉える傾向が生じる。労働を限定的に捉えると言う事は、作業の範囲や時間を限定することを意味する。労働の範囲が限定的になる事によって、仕事に隙間が生じるやすくなる。貨幣経済の弊害である。
貨幣的収入がない労働を公式の労働と見なさなくなる傾向を生む。その為に、労働は極めて限定的なものになる。又、労働の動機が貨幣収入に限定されることにもなる。
育児の動機は、子供に対する愛情に他ならない。労働も時間を限定的にするわけにはいかない。
しかし、育児を賃金労働に置き換えると母親の労働は無意味になり、母親の動機づけが難しくなる。母親は、育児や家事を放棄して、家庭外に賃金労働を求めることになる。家事一般を外注化すれば、費用は、過大となる。自分が得る所得を場合によって上回ることになる。結局、家計が破綻し、挙げ句に、育児放棄が始まる。
家庭内労働は、育児だけではない。老人介護や家事全般がある。それらの多くは、従来、貨幣に換算することができない労働とされてきた。ところが、現代の施策は、これら家庭内労働を全て外注化する方向にある。それは、家族や地域社会と言った共同体を破壊することにも繋がるのである。
貨幣経済と言えども、貨幣が、経済全般を支配しているわけではない。貨幣の役割を限定的に捉えないと、結局、経済を破綻させることになる。
経済上に期間損益主義が導入されることによって時間価値が重要な働きをするようになった。故に、経済現象を制御するためには、長期、短期の均衡を保つことが重要となるのである。
経済的価値に時間軸が加わったことで、経済の在り方が劇的に変わったのである。それが近代経済の幕開けとなった。
長期的、短期的資金の働きを知るためには、資産、費用、負債、資本、収益と資金との関係を明らかにする必要がある。
長期的資金と短期的な資金の働きの関係は、資産と費用の比率に現れる。
資産は、長期的周期の資金の流れを形成し、費用は短期的周期の資金の流れを形成する。長期的周期の資金は、ストックを短期的周期の資金は、フローを形成し、その比率が、通貨の流量と水準を決める。資産に対する投資によって資金を市場に放出し、収益によって資金を回収する。通貨回転が市場に実質貨幣価値の総量を規制し、回転数が停滞したり、低下すると貨幣の流通量が低下する。
長期的資金は、市場に流動する資金の水準を示す指標である。長期的資金は、換金化できる速度によって流動性が測られる。
故に、流動資産と固定資産の比率を明らかにし、貨幣性資産と非貨幣性資産との比率、及び、金融資産と非金融資産の比率、費用性資産と非償却資産との比率を明らかにする。
貨幣性資産とは、市場取引を経由せずに直接、決済に用いることの可能な資産を言う。即ち、支払準備のために経営主体内部に滞留している資産を言う。それに対して、非貨幣性資産とは、一旦市場取引を経由しないと決済に用いることができない資産を言う。
金融資産とは、実体的市場に投資されるための準備資金であり、実体的資産との比率が重要となる。
費用性資産は、長期的資金の回収状況に対する指標であるが、貨幣的裏付けを持っていない。長期的資金の回収状況は、負債勘定の差額としてしか表現されない。
長期的資金の流れの効率を知るためには、長期借入金÷(減価償却費+税引き後利益)が指標となる。
会計の構造による働きによって現金の流れる方向を精査し、制御する事が求められる。
注意しなければならないのは、売上と言えども必ずしも現金収入が同時に伴うとはかぎらない。つまり、期間損益と収支の関係を正しく理解しないと貨幣の短期の働きと、長期の働きの性格の違いを明らかにできない。
長期資金は、通貨の流量の水準を決め。短期資金は、消費の水準、即ち、所得や物価の水準を決める。
期間損益は、長期資金の働きと短期資金の働きを単位期間で明確に区分した。
時間価値は、付加価値に現れる。又、付加価値によって作用する。
市場を構成する貨幣価値には、動いている部分と静止している部分がある。貨幣は、動いている部分と静止している部分がある。そして、貨幣は、動いている部分と静止している部分では、働きに違いがあるのである。
長期的資金は、固定的部分であり、位置、水準が重要となる。それに対して、短期的資金は、変動的部分、流動的部分を形成する。
家計で言えば、住宅ローンの返済は、長期的資金を意味する。それに対して、可処分所得とは、長期的資金を除いた短期的資金、即ち、流動的資金の持ち分を意味する。
貨幣は、流れていると言うより、厳密に言うと充たされているといった方が妥当であり、一定の水準に保たれることによって一定の働きを維持しているといった方が良い。資産価値が急速に低下するとこの水準が保てなくなるのである。
厳密とに言うと実際に流れている貨幣は、ごく一部であり、大半の貨幣は流れているのではなく、充たされているといった方が妥当である。そして、銀行間のおいて決済されているのである。
この点を鑑みると、労働と財、通貨の市場に流通する量、水準と流れる方向が均衡しているかによって経済の状態は決まると考えられる。
時間的価値を均衡させるためには金利の働きが重要だが、財政の不均衡、破綻はこの金利の働きを機能させなくなってしまった。それが重大なのである。
財政問題で深刻なのは、国債が蓄積すると金利を拘束し、政策的に金利を活用することができなくなることである。それは、時間価値の機能を著しく低下させる。時間価値が働かなくなると、市場が機能しなくなる危険性が生じる。つまり、長期短期の価値が均衡しなくなるのである。
日本は、長期にわたって金利がゼロの状態に置かれている。これはもう、時間的価値が作用していないことを意味している。つまり、金融の仕組みが壊れてしまっているのである。今は、金利を度外視したところで経済を制御していることになる。しかし、金利は、国内の事情だけで決まるわけではない。経済が制御不能な状態に陥るのは必然的帰結である。
資本主義経済体制下では、国家も資本主義の原則に従うしかない。問題なのは、財政が資本主義的な原則から逸脱しており、資金に、長期短期の別がないことである。
経済学の中に経営学を取り込んでいく事が必要である。
経済が破綻したとき、企業収益の悪化、消費の低迷、所得の減少、資産価値の下落、株式相場の暴落、デフレーション、貸し渋りなどが同時に起こっているように思われる。しかし、実際は、これらの現象には順番があり、どの様な順序で起こったかが、原因を特定する上で重要となる。
発展段階相違した市場が混在する経済情勢で収益を維持するための仕組みの好例は、変動為替制度である。今日問題なのは、為替の変動を制御不能な状態に陥らせる動きが存在する事である。
適正な収益を維持するためには、収益を支える柱が必要となる。収益というのは裏返すと費用構造である。又、利益は時間価値であり、その基準は金利である。金利が維持されなければ時間価値は消滅する。かといって金利の設定を間違うと急速な物価上昇を招く。
収益を維持するのは、会計制度と市場の規制である。単純に、規制と保護主義を同一視するのは間違いである。逆に、保護主義的色彩が強い規制は、市場の機能を破綻させてしまう。保護と言っても自国の産業を保護するためではなく。市場の働きを保護することに眼目がある。
費用の中にも長期の働きと短期の働きが入り込んでいる。
費用構造で決定的な役割を果たす要因は、長期的な観点からすると人件費と設備投資である。短期的には、原材料と為替の変動、金利。
基数の変化としては、着工件数を例にとると新設需要を基数とするか更新需要を基数とするかによって違ってくる。
成熟した市場と成長過程にある市場が混在し、収益構造に歪みが生じていることが問題なのである。しかも、国家間の歪みを適正に調節できないのが問題を更に深刻にしているのである。成熟した市場の国は成長過程にある国に対し、費用上や為替上に競争力において常に不利な立場に立たされる。その為に防御上、保護主義的にならざるをえない状況にある。工業化が進めば技術力の差は決定的な要素にはならない。
年功序列、終身雇用は、成長経済だから成り立つ制度である。成長によって年功制度の歪みを是正することが可能だった。
つまり、長期と短期の貨幣価値の均衡が計れなくなるのである。
長期的な経済変動に与える費用は、人件費が核となっている。なぜならば、購買力と物価の上昇をもたらすからである。購買力と物価の上昇は、通貨の上昇をもたらす。また、人件費の水準は、生産拠点の移動にも結びつく。
成熟した市場を持つ国や地域の収益には下方圧力がかかる。成長過程にある市場の国や地域の収益には、上昇圧力がかかる。収益構造、即ち、費用構造をどう認識するかに依って施策は違ってくる。成熟市場を持つ国は、過去の成長に基づく奢りがある。
成熟市場の問題点は、長期、短期の差が縮小することによって時間価値による収益が縮小する事である。その為に、適正な収益が維持できなくなる。或いは、金利が取れなくなる事である。
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