対称性
問題は貨幣価値の根源にある。つまり、貨幣価値の根拠である。それを知るためには貨幣の生い立ちを明らかにする必要がある。
経済は、生きる為の活動である。経済の始まりは、自給自足にある。つまり、生きる為に必要な物の全てを自分達で調達し、或いは生産する事である。この時点で行われるのは、分かち合う事、即ち、分配であり、まだ、貨幣は必要とされていない。そして、必要とされるのは使用価値である。
貨幣が発生するのは、交換という行為が成立することによってである。交換という行為は、余剰生産物や不足な物が発生した時、余剰な生産物と不足な物とを交換する必要が生じることによって成立する。その端緒は物々交換である。この時点で物、財には、使用価値の他に交換価値が生じることになる。そして、物々交換が更に発展すると交換価値だけが特化されて貨幣が生じる。ただ、この時点でも貨幣は物としての価値を持ち、尚かつ使用価値も併せ持っている。
初期の物々交換は、物自体に使用価値がある。
貨幣としての働きは、交換の媒体である。この貨幣の交換という働きから貨幣の性格が形成される。その第一は、お互いが貨幣、即ち、交換の媒体としての価値を認識し、合意している事。第二に、単位化できる事。第三に計量化できる事。第四に価値を保存できる事。第五に、持ち運び、或いは、移動できる事。
今日の不換紙幣が成立する前提条件は、第一に、貨幣が市場に浸透していて、貨幣が循環するのに必要な一定量、流通している事。第二に、貨幣の働きや価値が社会的に承認されている事。第三に、貨幣の流通量が制御できる仕組みを持つ事である。
まず第一の要件を満たすためには、貨幣が何等かの形で事前に市場に供給されている必要がある。その役割を果たしたのが、金貨、銀貨、銅貨と言った鋳造貨幣、或いは、秤量貨幣である。鋳造貨幣や秤量貨幣は、物としての価値、貨幣の素材の貨幣価値が貨幣価値と同量の価値を併せ持っている事を前提としている。そして、回収を前提とせず単に決済手段として一方的に権力機関から市場に放出される。
しかし、この様な貨幣は、貨幣の製造力による限界があり、貨幣の素材を調達することが困難になると財政は逼迫する。
この様な財政状態を補う形で信用貨幣が流通するようになる。
又、一方的に貨幣を供給し続けると貨幣の流通量を制御できなくなる。
その為に、過剰流動性が起こり、インフレーションが昂進する怖れがある。それを制御するためには、行政機関の外に中央銀行を設定し、紙幣の発行権を行政から切り離す。行政は、借入を起こすことを前提とし、貨幣の回収と供給という機能によって貨幣を市場に循環させる仕組みを構築する。
この時点で貨幣は、基本的に負債の部分を形成するようになるのである。
兌換紙幣から不換紙幣へと変換し、最終的には貨幣価値を情報化する。その前提は、国家が借金をし、且つ、その借金の保証をして、中央銀行が発券する事なのである。
一般に貨幣制度が導入された当初は、貨幣その物が持つ価値に基ずく必要がある。その場合は、貨幣その物に価値があるから貨幣に発行益が生じる。それがシニョレジである。
市場が飽和状態なるまでは、通貨発行益(シニョレッジ)が生じる。ただし、シニョレッジの効果は貨幣が市場に浸透するまでの間である。市場が過飽和な状態になると過剰流動性となりインフレーションが発生する。
行政費用は、シニョレッジが成立する段階ではシニョレジに依存することは可能であるが、一旦、貨幣が飽和状態に達したらその後は、貨幣を回収循環することによって行政費用を賄わなければならなくなる。
その段階になると貨幣は、行政に対して負の働きを持つようになるのである。この負の働きが下部構造となって正の働き、即ち、実物経済が機能するようになる。
負の経済は、今日の経済の半分を形成している。故に、負の経済の確立も重要であり、不可欠なことである。
そして、正の経済に基づく社会と負の経済に基づく経済とは、まったく異質の経済社会なのである。
通貨が一定方向に流れると通貨が流れた量と同量の債権と債務が生じ、逆方向に流れると債権と債務は消滅する。
通貨が負(負債、資本、収益)の方向から正(資産、費用)の方向へ流れる時、債権と債務が発生し、正から負の方向に流れる時、債権と債務は清算される。
国も、企業も、家計も、更に、中央銀行も借金を前提として成り立っているのである。国が借金をし投資をすることで、企業も収益をあげることが可能となり、尚かつ、人件費として所得を分配できる。その様にして、企業が借金をして資金を廻すのである。家計も借金をすることによって家を建て、自動車を買うことが可能となる。
この様な経済の仕組みから見て借金をすることが、悪いと断定してしまうと、経済は廻らなくなるのである。借金が悪いのではなく、貨幣の流量を制御できなくなるのが障害なのである。
国は、家計や企業から借金をし、家計や企業は、金融機関から借金をし、金融機関は、中央銀行から借金をする。金融機関が中央銀行から借金をすることによって貨幣は市中に流通するのである。
では、中央銀行は、どこから借金をするのか。それは市場信認、言い替えると、国民から借金をするのである。この最後の部分が肝腎なのである。つまり、中央銀行はどこから、どの様な名目によって借金をするのか。それが貨幣経済の本源を明らかにすることなのである。
中央銀行が貨幣を生み出す絡繰り(からくり)、仕組みこそ今日の経済を制御する装置が隠されている。銀行の会計の仕組みこそ、又、複式簿記の構造こそ貨幣経済を制御する装置なのであり、また、財政を動かす鍵が隠されているのである。
貨幣とは、負の価値なのである。貨幣価値は、財の価値を貨幣価値に写像する事によって成立する。即ち、貨幣価値とは影であり、貨幣価値を表象する貨幣は、負の存在なのである。この前提を理解しないと財政を理解することは出来ない。
EUの問題点は、国家と中央銀行と金融機関とを制御する仕組みにある。全ての機関が一つの枠組みの中で機能できないことが市場の制御を妨げているのである。むろん集権的な構造を持つ必要はなく。分権的な仕組みでも充分に機能することは出来る。ただ、いずれにしても一つの設計思想に基づかなければならないのである。
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