景気変動のメカニズム
経済を制御するためには、景気変動のメカニズムを明らかにする必要がある。さもないと、恐慌やバブルと言った現象は防げない。又、財政を健全に運営することも出来ない。
負を否定的にのみ捉えていたら、経済問題は解決できない。
正の世界の混乱は、負の世界を制御できないことに原因があり、負の世界を制御できない要因は、正の世界の出来事にある場合が多い。正の世界と負の世界は構造的に一体なのである。そして、正の世界と負の世界が統制できない原因の一つに正の世界が有限なのに対して負の世界は、無限を基盤にしているという点がある。
更に、負の世界は指数的、即ち、幾何級数的に変化するのに対して正の世界は、何等かの制約があり、多くの変化は、線形的、即ち、算術級数的に変化する。正の世界は、幾何級数的な変化だとしても、何等かの制約によって限界がある。
負の世界は、貨幣的な世界であり、名目的な世界である。正の世界は、実物的、実体的世界である。
名目的価値や時間価値は、幾何級数的に変化するのに対し、実物価値には、物理的な制約があり、物理的な制約による限界がある。つまり、実物価値には、臨界点があるのである。その為に、実物価値は、どこかに算術的価値に変質する。それが景気の揺らぎをもたらすのである。例えば、人間が活用できる土地には限りがある。その限界を超えて開発を推し進めれば必然的に環境問題を引き起こすのである。
また、正の世界は一元的なのに対して、負の世界は、二元的で且つゼロサムを基本としている点である。
為替はゼロサムであり、相対的だと言うことである。上がる通貨もあれば、下がる通貨もある。
為替を変動させる要因は、通貨の動きである。通貨の相対的価値を決めるのは、貨幣の移動であるが、貨幣の移動を促すのは、人、物、金の流れである。
つまり、通貨圏を越えて流れる人、物、金が通貨の相対的価値を決めるのである。
人の流れを形成するのは、第一に、労働と収入、第二に、消費と支出がある。物の流れには、第一に、有形な物と無形な物、第二に、動産と不動産の別がある。金の流れには、第一に、実体的なものと名目的なもの、第二に、貸し借り、第三に、売り買いがある。
経常収支は、資本収支と原則一致する。ただし、政府が為替に介入した場合は、外貨準備高増減に反映される。
即ち、経常収支+資本収支=外貨準備高増減
財政収支+財政資本収支=0
民間収支+民間資本収支=0(注意しなければならないのは、民間収支、民間資本収支とは、期間損益ではなく、現金収支のことを言う。即ち、キャッシュフローのことを言うのである。)
家計収支+家計資本収支=0
この事は、海外、財政、民間経営主体、家計の間の貸し借りが市場経済の土台を形成していることを意味する。
赤字の経済主体の問題は、黒字の経済主体の問題でもある。
赤字国があって黒字国がある。それによって経済の均衡は保たれている。赤字国の問題は、黒字国の問題でもある。赤字国の財政や経済の破綻は、必然的に黒字国にも及ぶ。
自由主義経済は、市場経済と貨幣制度から成り立ち。今日の市場経済は、会計制度、複式簿記を土台にしている。
会計制度を成り立たせている前提は、現金収支である。
故に、個々の取引が成立した時点では、収入と収支、現金の流れを前提としている。最初から期間損益に仕分けられているわけではない。取引が会計帳簿に記入された時点で期間損益に仕分けられるのである。
その場合、収入は借方に、支出は貸方に仕分けられ、そしてその対極に収入の要因、支出の要因が振り分けられるのである。
帳憑に記入された時点で長期的に決済される収入は、総資本に、短期的に決済される収入は、収益に仕分けられ、それに対応する要因、即ち、長期的要因は総資産に、短期的要因は、費用に振り分けられるのである。
それが前提である。その上で利益によって期間損益の均衡が測られるのである。注意しなければならないのは、利益は指標であり、目的ではないという点である。
目的は、事業の継続であり、事業を継続することで社会に必要な財を生産し、所得を分配することである。
利益を目的化してしまうと利益の持つ本来の働きや財の生産、所得の分配といった経営主体本来の働きが見失われてしまう。
経営主体というのは、整流器のような役割をしているという事を前提とする。つまり、変動する収入を平準化して固定的支出に変換していく役割を経営主体は担っている。
その為に、資金の変動を資産、負債、収益、費用に変換したうえで、利益と資本によって調節をする。それが資本主義の基本的原理なのである。
つまり、資金が不足した時は、外部から資金を調達し、余剰の資金が派生した時は、それを外部で運用する。その実務をになっているのが金融や証券なのである。金融や証券、政策を担う者は、短期的周期と長期的傾向を前提として突発的な事態に対処すべきなのである。
収入には、一般に波があり、一定していない。その波は、定常的な波と非定常的な波、そして、突発的な波の三種類がある。いずれにしても収入は一定していないのが常である。
問題なのは、長期負債の清算は、費用計上されずに、直接、資産と負債を減少させることによって行われるという点である。また、納税、役員報酬、株主配当も利益処分の中からされるという事が前提となっている。
その上で、長期資金の返済原資は、減価償却費と利益処分の中からされる。ただし、長期借入金の返済は、会計では利益処分にも、費用にも表れない。つまり、事実上、決算情報には表れない。唯一、計上されるのは、キャッシュフロー上であるが、キャッシュフロー上表れたとしても返済金額は、利益に反映されない。
そうなると、長期負債を清算しようとしても直接、費用として収益から差し引くことが出来ない。つまり、余剰利益が計上され、それに課税されることになる上、資産、特に流動性の高い資産を減少させることになり、資金繰りが厳しくなる。最悪の場合倒産する。
また、納税額や資金のことを考えると資産価値が高騰している時に資産を手放し、負債を清算しようと言う動機が働きにくいのである。
そこで、一般に経営主体は、短期的資金の調達は、資産を売らずに、資産を担保として借入を行う傾向がある。又、利益が上がっり資金に余力が出来たとき、多くの経営主体は、資産を購入して資金不足の時に備えようとする。それが含み資産である。
その為に、負債は蓄積されていく傾向がある。
これらの点を前提として税制、会計基準、経済政策を立てていく必要がある。
長期負債は、その性格上、一括的に処理をするという事が難しい性格がある。第一に返済条件は、約定によって決められていて、勝手に変更することが出来ない。つまり、負債条件には制約がある。又、利益が上がったから返済しようとしても費用計上されずに資産から直接減額され、その上に、課税されてしまうために、返済した途端に資金が廻らなくなる。利益が上がっているのに経営に行き詰まるといった事態を引き起こす。
それが収益が悪化しているときに行われたら、尚更である。
故に、経済の大きな変動の時に、一気に負債を清算させようとすると景気の底が割れてしまうのである。金融や政策をになう当事者は資金、資産、負債、収益、費用の動きと相互作用をよく理解した上で対策を講じる必要がある。
なぜ、日本が長期的停滞期に入ったか。それは、強引に不良債権を処理させ、市場の競争を促す政策をとったからである。とるべき政策は資産の下落を抑制し、収益の向上を計るような施策である。
もともと資本主義は、短期的に均衡させる部分と長期的に均衡させる部分を区分することによって成り立っているのである。その為には、黒字は是で赤字は非といった議論ではなく、正の部分と負の部分をいかに時間的に又空間的に均衡させるかを議論させるべきなのである。それは根本的に経済の仕組み、構造の問題に帰着する。
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