市場の働き


 なぜ、今、経済が円滑に機能しないのか。それは企業が利益をあげられなくなってきているからである。

 市場の原理として競争を絶対視する傾向があるが、市場の働きは、競争にあるわけではない。競争は市場の働きの一部である。
 市場の働きは、第一に分配機能にある。第二に、価格決定機能にある。第三に、価格の平準化。(価格のバラツキを平準化する)第四に、需要と供給の調整にある。第五に、資源(人、物、金)の調達、貯蔵、流通、管理。第六に、財や労働、生産手段の品質保証。(安全や保守などを含む)第七に、環境保護。第八に、生産量の調節。第九に、消費者保護。第十に、雇用の創出と維持。定収入の確立。第十一に、投資の促進と調節。第十二に、信用制度の確立。(負債の保障)第十三に、取引のルール化と規律維持。第十四に、貨幣の信認と流通。第十五に、産業の保護育成。第十六に、非効率な産業や経営主体の淘汰、第十七に、内外価格差や為替変動の調節である。
 第一の分配機能とは、財と貨幣との交換を通して財の分配を促す働きである。第二の、価格決定機能とは、市場取引を通してその時点での財の貨幣価値を決定する働きである。第三の、重要と供給の調整機能は、需要と供給を調節することを通じて生産や消費を制御する事でもある。
 競争は、価格決定機能の中の一つの働きであり、競争の役割は、競争を通じて適正な価格を決める事にある。つまり、競争の目的は適正な価格を決定することにある。逆に言えば、競争が適正な価格を阻害する場合は、競争はかえって弊害になる。

 市場の働きで持つとも重要なのは、分配機能である。分配機能とは、市場取引を通じて財を分配することにある。
 市場で適正な分配が実現するためには、貨幣が、市場の参加者に万遍なく行き渡っている必要がある。貨幣は、市場において財と交換する権利を表象した物である。

 市場競争が適正な働きをするのは、適正な価格を形成するという点においてである。
 公正な競争は、公正なルールがあって成り立つことを忘れてはならない。ルールがない無原則な争いは、競争ではなく、闘争であり、喧嘩である。最終的には殺戮に繋がる。戦争にすらルールがあるのである。
 ルールとは、規制である。規制を緩和すれば、公正な競争が保障されるわけではない。
 無原則に規制を緩和することは、単に闘争を煽ることであり、公正な競争を保障することではない。現に規制を無原則に緩和した市場は、荒廃し、結局、寡占、独占を促す結果を招いているのである。

 三億円を投資するというのは、三億円資産を手に入れると同時に、三億円の資金をどこからか融通してくることを意味する。この点を忘れてはならない。そして、三億円の資金を調達すると言う事は、三億円に対する返済義務、つまり、債務を負うと言う事である。これは資本でも同じである。この返済は、基本的に収入の中から捻出されるべきものである。ここで重要なのは、収益ではなく、収入の中から捻出しなければならないと言う点である。
 問題は、借入金の返済資金が収入によって賄えなくなると負債が増大するか、資金繰りが破綻するかだと言う事です。長期借入金の返済額を上回るような利益を上げられるかどうかが、総資本の動向を左右するのである。尚かつ、収益が悪化した時に、長期借入金の元本の返済を迫られれば、経済は成り立たなくなる。

 長期借入金の返済額は、会計上正式には表面に現れてこない。故に、その原資は、税引き後利益から求められる。税引き後利益から差し引かれるという事は、税金の分だけ借入金の原資は目減りする。又、基本的には、長期借入金の返済は認識されていない。不良債権というのは、対極に不良債務を持つ。収益が悪化した際に不良債権を処理すると資産は処分されても不良債務は残る。つまり、結果的に債務は累積するのである。問題は、収益の悪化が根底にあることを忘れてはならない。
 もう一つ危険なのは、債権が清算されて債務だけが残った場合、通貨だ余剰に流通すると言う事である。通貨が余剰に流通することは、過剰流動性を発生させる。過剰流動性は、将来のインフレーションの原因となる。
 この点を理解して税制などの設計はされなければならない。

 過剰流動性によるインフレ圧力と円高によるデフレ圧力の奇妙な均衡が現在の日本の経済状態である。

 問題は、収入と支出にあるのです。
 期間損益では、収入は利益に基づく。利益は、収益と費用の均衡によって成り立っている。結局、一定期間内における収入と支出の不均衡を是正するために、収益と費用が設定されたのである。そして、期間損益の過不足を長期的資金の有り様によって均衡を保とうと言うのが期間損益主義である。
 期間損益の期間となるのが収益と費用である。つまり、収益と費用の均衡が保てなくなると経済は成り立たなくなるのが期間損益主義なのである。
 ところが、個々の産業や経営主体は安定的な収益を恒常的に保つことが難しい。だからこそ、政治の働きが重要となるのである。

 市場は、人工的仕組みであって自然に成った場ではない。市場が仕組みであるならば、市場が正常の作動するためにはいろいろな安全装置を必要としているのである。

 現在の市場経済は、定職、定収を前提としている。定収、定職が確立されることによって成り立つ信用制度が基盤にある。故に、定職体制が崩壊すれば途端に瓦解することになる。
 例えば、我々が住宅を購入しようとした場合、その際に、住宅ローンを組む為には、定職につき、定収入があることが前提となる。失業し、定収入が得られなくなると途端にこの構造は破綻する。返済が滞った場合、ローンそのものの全額返済や担保物件の処分が要求されることになる。
 問題は、収入なのである。それも一定の収入なのである。いくら生活費を切りつめ、蓄えを取り崩しても、収入が得られなければ、問題は解決されない。
 企業経営も、財政も、同じ構造を持っている。故に、収益を改善しない限り、問題は解決されないのである。

 貨幣経済において経済を牽引するのは、現金の流れである。現金の働きを知るためには、現金の流れる経路が重要となる。
 そして、現金の働きは、現金の流れる量と方向、速度、範囲によって決まる。速度は視点を変えると回転を意味する。
 貨幣が市場に供給される手順は、発券機関が公共機関や金融機関に貸し出す、それを金融機関や公共機関が投資する事で市中に貨幣を供給する。投資は、資産に転じ、資産は、費用に転じる。費用として支出された資金は、収入と所得になる。収入と所得は、消費、貯蓄、借金の返済、税へと分配される。貯蓄や税は再投資されて市場に環流される。借金の返済は、清算される。その上で、消費や再投資は、収益に還元され、費用として再分配される。この繰り返しが市場の仕組みを維持しているのである。
 貯蓄にせよ、借入金の返済にせよ金融機関に回収されることには変わりはない。市場に環流されるのは、消費した部分である。
 市場の仕組みは、現金が環流することによって維持されている。現金の流れが止まると市場の機構は破綻する。
 この様な市場経済では購買力が基盤となる。購買力は、所得を根源としている。雇用が不安定になれば必然的に経済は不安定になるのである。
 経済を牽引するのは、通貨の流れなのである。そして、通貨が市場に流通する量の最終的な基礎は、収入であり、所得にある。
 収入や所得は、量と回転が重要となる。
 税は、公共投資と所得の再分配に向けられる。所得の再分配で重要なことは、国内総所得に占める割合である。所得の再分配に資する比率が高くなる。即ち、一人の所得でかかる再分配に要する比率、社会全体の生産に寄与している働き手が人口が人口全体に占める割合が重要となる。なぜならば、所得に占める税の比率が高くなれば、必然的に一人当たりの所得を高い水準を維持する必要が生じるからである。

 市場の役割で重要なのは、価格調整を通じて付加価値を維持することである。

 投資というのは、最初に、資金を調達し、資産を手に入れることを意味する。資金を調達するというのは、負債という形をとろうと、資本という形をとろうと債務を負うことには変わりはない。
 投資は、その性格上、投資が成立した時点から債務と債権の非対称性が顕著となる。
 問題は、資産の下落である。資産は、土地の様な一部の資産を除いて所有権を獲得した時点から劣化する。資産が問題となるのは、債務が資産を担保しているからである。収入によって債務の返済が保障されている場合は、問題が表面化しない。しかし、収益が悪化すると不良債権として表面化してくるのである。

 金利とは何か。金利の意味を明らかにするためには、金利の働きを知る必要がある。
 金利の働きには、第一に、時間価値の形成がある。第二に、費用としての働きがある。第三には、金融機関にとって収益源としての働きがある。第四に、付加価値としての働きがある。第五に、物価に対する働きがある。第六に、金利は、為替相場を形成する働きがある。第七に、金利は、貨幣の流通量と回転、そして、ストックに与える働きがある。

 金利が時間価値を形成すると言う事は、金利は時間の関数だと言う事である。
 故に、金利の働きを測る場合は、キャッシュ・フローによる現在価値を計算する必要がある。
 時間的金利差が経済に及ぼす影響も考慮しなければならない。

 考慮しなければならないのは、借入金の返済計画と収益とが必ずしも連動していないという事である。

 借入金の構造は、借入金の元本の部分と利息の部分から成る。借金の構造の中で利息の部分が時間構造を形成する。
 借金か、借金でないかは、調達した資金を決済するための期間によって決まる。即ち、調達した資金を決済するのに、単位期間を越えるものを借入金、負債に分類され、単位期間内に決済される部分を費用とするのである。ただし、借入金の元本に相当する部分の返済額は、費用として見なされない。










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